3日目の早朝には観光客のまばらな法隆寺を散策し、斑鳩の情緒を味わった。そしてその後、興福寺へ足を伸ばした。
ここでは宝物館の金剛力士像と天灯鬼像・龍灯鬼像が印象に残った。力士像も灯鬼像も写実性に優れた作品であったが、特に両灯鬼像はユーモラスなタッチで彫られたところが逆に写実性を増してるように個人的には感じられた。この灯鬼像は運慶の三男・康弁(こうべん)の手によるものらしいが、この写実性とコミカルさを併せ持った彫刻は父親の写実性を如何に打破するか思い悩んだ末の成果だと評価したいのだが、今となっては康弁がどのような思いで彫ったのか真実のところは解らない。
自画自賛にはなるが、俺は高校時代の美術の時間、この天灯鬼像にシーチキンの缶詰を担がせ、右手に缶切りを持たせた水彩画を描いて学友たちから好評を得たのであるが、ただ美術の先生からはすこぶる悪い評価を頂いたのであった。