勝海舟の最期

勝海舟の最期

大寒に入るの前一日、天気晴朗なり。この日、海舟先生、意気殊(こと)に爽然として、諧謔百出す。午前、入って浴して後、微(すこ)しく異常あり。少(しば)らくして、胸頭激痛を起こし、悪汗流れ発す。命じてこれを拭わしむるとき、顧みて微笑していう、今度は死ぬるゾと。湯を求めていまだ至らず、忽焉(こつえん)として倒れ、これより長眠せらる。
 
「女学雑誌」第四百八十号 掲載  巌本善治氏 「先生を失うの嘆き」の冒頭部 岩波文庫 「新訂海舟座談」より