伝説の牝馬・ロジータ

伝説の牝馬・ロジータ

二十数年前、南関東にロジータという牝馬がいた。
4歳(現3歳)時は、南関東8戦中2着1回、残り7戦負けなしの連帯率10割であった。
ロジータと巡り合ったのは大井競馬場で行われた「東京王冠賞」だったと記憶する。競馬新聞にはロージタの名が溢れ、場内もアイドル来場的な雰囲気が流れていた。結果はロジータがトップでゴールし、スタンドはドッと湧いた。競馬をかじった程度の経験しかなかった私は、この馬は何者なのだろうと思わずにはいられなかった。馬券は買ってはいたが元返しに近いものであった。
その後、ロジータは東京競馬場で「ジャパンカップ(GⅠ)」に参戦するもののターフが合わなかったのか最下位に甘んじる。しかし、南関東ではロジータ人気に陰りが出ることはなかった。
次の大井競馬場の「東京大賞典」では岩手競馬からやってきた17戦15勝2着2回のスイフトセイダイの2番人気ながら結果は大差での優勝だった。
そして引退レースとなったのが、次走の「川崎記念」である。
この頃、私はUターン転職が決まり残り少ない東京での生活を酒とギャンブルで満たしていた。
そんなある日、二日酔い気味で開いたスポーツ新聞でロジータの引退を知った私は川崎競馬場へと足を運んだ。パドックには多くの人が集まり、普段と違う雰囲気が漂っていた。ロジータは淡々と周回していたが、その時、突然「ロジータ、愛してるよ~」と一人のファンの声が響いた。パドックで大きな声を出すのはマナー違反であることは経験の浅い私でも知っていたのだが、この時ばかりは失笑ではない微かな笑いが観客から起こったのである。この出来事にロジータは立ち止まり声の主を振り返ったが、しばらくして何事もなかった様に歩き出した。レースの結果はロジータがブッチギリでゴールを駆け抜け引退レースを飾った。
私はそれから数日して東京を離れたのだが、何故なのかこの時のパドックの情景が二十数年経った今となっても心から消え去ることがないのである。